甲陽の美酒 緑葡萄
霜露三更 客袍をうるおす
須すべからくしるべし 良宵天下に少なるを
芙蓉峰上 一輪高し
これは、江戸時代の漢学者、荻生徂徠(おぎゅうそらい、1666~1728)が、甲斐の国を訪れた際、月夜に富士山を眺めながら詠った漢詩です。意味は以下。
甲斐の美味しい酒、それは緑うるわしい葡萄から。
いまは三更(午後11時から午前1時までの間、真夜中)、霜や露がわたしたちの服を湿らせる。
こんな良い夜はこの世界にそうあるものじゃない。
向こうに見える芙蓉峰(富士山の昔の呼び方)の上に一輪の月が明るくかかっている。
当時すでに名産だった甲斐(現在の山梨県)のブドウ酒を仲間と酌み交わし、こんな素敵な夜は二度とないという気持ちを詠んだそうです。
ブドウの栽培やワインづくりが日本で本格的に始まったのは明治期。
だから当時の葡萄酒がどのようなものだったかは分かりませんが、今から300年以上も前からワイン(ブドウ酒)は人を集わせ友をつなげ、素敵なひとときに寄り添う存在だったのですね。